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世界の終りとハードボイルドワンダーランド

注意してほしいのは、今回の内容は完全なる
ネタバレの話だということだ。

1Q84が文庫化(しかも6冊続く)された村上春樹氏の作品の最高傑作として名前があがる作品が2つある。
ねじまき鳥クロニクル
世界の終りとハードボイルドワンダーランド

この2作品である。確かに両方とも面白い。

今回紹介するのは1985年・・・いまから30年近くも前に発表された作品だ。
世界の終りとハードボイルドワンダーランドである。

計算士として組織で働く私(ハードボイルド・ワンダーランド)と、壁に囲まれたおとぎ話のような静かな村に迷い込んだ僕(世界の終り)の物語が交互に語られる手法で物語は進んでいく。

もう一度言うが、この先は思いっきりネタバレである。注意してほしい。

この物語、30年近く前に書かれているのに全然古さを感じさせない。もちろん携帯やパソコンのような現代機器が無かった時代の小説なのでその類のものは登場しないのだが、そもそも世界の終りハードボイルド・ワンダーランドも明確な時代設定がされていない。

そして、主人公たちが置かれた立場や理由についても一切の説明がない(序盤)。

では、ハードボイルド・ワンダーランドから説明していこう。
計算士として働く私は、ある依頼を受け、クライアントに会うためにエレベーターに乗っている。物語はそこから唐突に始まる。

物語の始まりはこうだ。

エレベーターはきわめて緩慢な速度で上昇をつづけていた。おそらくエレベーターは上昇していたのだろうと私は思う。しかし正確なところはわからない。

そのエレベーターにはボタンも何も無く、まるでスチール製の棺桶のようで、私のした咳払いは肺炎をこじらせた犬の鳴き声のように聴こえたと、私は語る。
不安になった私は、気を紛らわすために、ポケットの中の小銭を数えることにした。計算士としての感覚を鍛える為に、つねに小銭をポケットに入れているのだ。
だが、私は・・・普段では考えられないことだが、小銭の金額を間違えてしまう。嫌な予感がした。
もう一度数えなおそうとしたところで、唐突にエレベーターのドアが開き、ピンク色のスーツに身を包んだ若くて太った美しい女が現れた。彼女は私に「プルースト」と言い、「たつせる」と言い、「せら」と言った。いや、そういう形に唇が動いた。
彼女に案内されるまま部屋に着いた私は、彼女の指示で雨合羽を着て、ゴム長靴をはいて、壁に開いた穴を通って、老人の待つ研究室に向かった。

ここまでの間・・・詳細な説明は一切なく物語は進行する。

穴の中は真っ暗で、川が流れていて、やみくろと呼ばれる謎の生物が住んでいる。
やみくろは記号士と手を組んでいるらしい・・・。

何となく、舞台の背景が紹介され始めるのは、物語が始まって、70ページ目くらいからである。

主人公の私の職業、計算士とは、いわばコンピューターのような人間である。右脳と左脳を使って計算式や記号を読み込み解析する仕事のようだ。コンピューターではハッキングで情報を盗まれるため、その代用を人間の脳で行うものらしい。
やみくろと手を組む記号士とは、いわばハッカーやスパイのような連中だろう。
記号士(工場に所属)と計算士(組織の所属)は対立関係にあるようだ。

主人公の私はとりわけ優秀な計算士で、シャフリングも行えるようだが、シャフリングは危険なので今は禁止されている作業のようだ。・・・それについて詳細説明は一切ない。

だが、今回のクライアントの老人は、シャフリング許可を組織から承諾されている。そこで主人公のわたしは、研究室でブレイン・ウォッシュで解析を行い、自宅に戻ってシャフリングを行うことにする。シャフリングにはそれなりの準備が必要らしい。

そして、私は老人に質問する。私が解析する数値は何なのか?
それは、音の信号を解析し、人為的に操作するための数値らしい。老人は音を研究する博士なのだ。
例えば、騒音を聴こえなくしたり、その逆も然り・・・。研究室に来る途中に大きな滝があったが、まるで音が聴こえなかったのはそのせいらしい。
・・・と、言うことは、ピンク色のスーツを着た若くて太った美しい女も?

彼女は博士の孫娘で、博士は彼女に音抜き実験を行って解除するのを忘れていたようだ・・・。

だが、この老人の依頼を受けたことで、私は色々な方面から目をつけられ狙われることとなる。それほど、博士の実験結果は重要なものらしい・・・。

音抜き・音入れの技術を商品化すれば、世の中は劇的に変わる。
コンサートで大音量を出す装置は不要になるし、飛行機の騒音を消せば空港周辺の環境は良くなる。
だが、爆撃機や銃器の音が消えたらどうなる?
大音量で人を殺せる爆弾が開発されたら?

そんな危険な技術の解析情報が・・・わたしの脳の中にあるのだ。脳内に保存されているのである。もちろん、主人公にはその数式が何のことなのか理解はできていない。ただ、計算して解析するだけだ。

研究室での作業を終えた私は、ひとまず自宅へ戻ることにする。帰りに会った若くて太った女は言葉が戻っていた。彼女は17歳らしい。
自宅へ戻った私は、帰り際に博士にもらった箱を開けてみた。
中には・・・哺乳類の頭骨が入っていた。

やれやれ、と私は思った。あの老人は私が頭骨をもらって喜ぶなんて思ったのだろうか?誰かに動物の頭骨をプレゼントするなんてどう考えてもまともな神経の持ち主じゃない。

だが、その頭骨が何の骨なのか気になった私は図書館に行って調べることにした。
図書館の受付で哺乳類の骨の図鑑を借りようと思ったが、どうやらその図鑑は貸出禁止の本らしい。受付の女性に無理を言ってお願いし、アイスクリームと交換条件で貸出禁止の図鑑を一日借りることになった。

家に戻って図鑑を見ていると、ガスの定期検査の男がやってきた。
でも、ガスの定期検査は先月来たし、男の動作が不自然だったので、とりあえず不用心な振りをして部屋に上げると・・・男は哺乳類の頭骨を盗もうとした。
男をとっ捕まえて脅して、誰に頼まれたと聴くと、二人組の男に五万円もらって、盗むように言われたという返事だった・・・。
その二人はきっと工場側の人間だろう・・・。

私はふと、哺乳類の頭骨をスチールの棒で叩いてみると、くうんと音が鳴った。
その音は、頭骨の中央にあるくぼみから聴こえていた。
まるで、角でも生えていたようなくぼみだ。一角の哺乳類?

貸出禁止の図鑑で、頭に一角の哺乳類を調べてみたが該当する生き物はのっていなかった。
私は便宜上、その骨は一角獣の骨だと考えることにした。

私は一角獣の頭骨を手に入れた・・・

わたしは、音抜きだとか、一角獣の頭骨だとか、厄介なことには関わりたくないのだが・・・。
仕方ないので、私は図書館に電話して、受付の彼女一角獣について調べてほしいとお願いした。色々な事情で、どうしても家から出られないことを伝えて・・・。

彼女は呆れたようすだったが、一角獣の本を家まで届けてくれることになった。



そしてもうひとつの物語、世界の終りだ。

高い壁に囲まれた街にやって来たの物語はゆったりとすすんで行く。
ドタバタ喜劇のようなハードボイルド・ワンダーランドとは正反対である。

この街の唯一の入り口には門番と呼ばれる大男がいて、彼は毎朝門を開け、一角獣を街の中に入れ、そして夜は外に出す。
僕は疑問に思って「なぜ毎日そんなことをしてるのか?」と質問すると、それが決まりだからさと彼は言う。

この街には決まりがあり、街に入るためには影を切り離さなければならない。
僕は影を切り離して街に入った。

この街では必ず何か仕事をしなければならない。僕は門番に言われ、街の図書館夢読みというものをやることになった。

門番は僕の両目にナイフで傷を入れる・・・それが夢読みの証だという。夢読みが全て終われば、傷は治るらしい・・・。僕は明るい光を見ることができなくなった。

夢読みという仕事をやるために街の図書館に行くと、そこにはひとりの少女がいた。僕は彼女とどこかで会ったことがある・・・。でも思い出せない。

そう・・・ハードボイルド・ワンダーランドと世界の終りは・・・どこかで何かが繋がっているようだ・・・その一つが図書館の受付の女性である。

彼女は僕に夢読みとは何かを教えてくれた。
夢読みとは、古い夢を読むこと・・・。

彼女がテーブルに置いたのは、一角獣の頭骨だ。

古い夢は一角獣の頭骨の中にあるという。頭骨に手を触れ意識を集中すると、頭骨は光と熱を発し、指先に古い夢を感じることができる。でもそれは断片的な映像の羅列のようなものに近く、何を意味しているのかは分からない・・・。

この街には影と一緒に心を捨てた住人が住んでいる。影と一緒に心を切り離すらしい。
門番は僕の影をナイフで切り取り、影はあっけなく僕から離れてしまった。

は僕に対して「君はこの先、後悔するんじゃないか?」と言った。「この街は何から何まで不自然だぞ」と警告してくれた。僕は、いつかまた一緒にこの街を出ようと影と約束したが・・・門番は、一度入ったらこの街からは出られないと僕に言った・・・。

僕は最初の夢読みを終えると、図書館の彼女を家まで送って部屋に戻った・・・。

「君が影を取り戻すことはもうないね」と隣人の大佐は言う。

切り離された影は二度目の春を見ることは出来ないと大佐は言う。僕は影に会いたかったが、門番は僕を影に合わせてはくれなかった。
高い壁に囲まれたこの街で、僕に選べることはほんのわずかだと感じた・・・。


ハードボイルド・ワンダーランド

私は図書館の彼女が来るまでの間に簡単な夕食を作った。
家にやって来た図書館の彼女が、その料理を食べたそうだったので、勧めると・・・彼女は梅干しの種を残してテーブルの上の料理をきれいさっぱり食べ尽くしてしまった。
彼女は胃拡張なのだそうだ・・・。
そのせいで、私のペニスはうまく勃起しなかった。

・・・と、ここで村上春樹お馴染みの男女関係の描写が描かれていく。彼の作品には常にこの手の性的描写が描かれている。

まあ、そんなこんなで図書館の彼女との性行は上手くいかなかったのだけど、彼女と私はベッドで横になっていた。私たちはそこで自分の職業や近況を話すのだ。
図書館の彼女は29歳で、ずっと前に離婚して子ども無し恋人無し。
私も妻とは離婚していて、恋人はいない。
仕事はコンピュータ関係の仕事だと言っておく。
彼女は私を「テレビで見た気がする」と言う。どうも私はコンピュータ関係の仕事をしているようには見えないという。
まあ、私たちは正式ではないが、恋人関係のような間柄になった。

私はベッドの上で彼女から一角獣について色々と教えてもらう。
一角獣の解釈は西洋と東洋で大きく異なっている。西洋では危険で凶暴な存在だが、東洋では幸福の証だという。また、見た目も大きく違っている。
一角獣は架空の生き物ではないかもしれない。1917年のロシア戦線で一角獣の頭骨が発見された報告例がある。
その頭骨は様々なルートで様々な人々の手に渡り、今は行方不明で写真が残っているだけだと言う。

彼女の話が終わった後も、私のペニスの状態は好転しなかった。彼女はそんなのどっちでもかまわないわといった様子で、私のお腹の上にわけのわからない図形を指先で書いていた・・・。

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